例の WP Engine との係争の件で僕は Matt Mullenweg 氏を全面的に支持しています。この件に関しては人それぞれ大きく違った見方をしていると思いますが、僕が Matt の立場を支持するのには僕の独特な立ち位置が大きく関係しており、僕の目からこの問題がどう見えているのか共有することはある程度意味のあることかもしれない、と思います。
僕は2007年ごろから WordPress のプラグインを作ってきました。利益や名声などのためではなく WordPress に恩返しがしたいという思いでずっと、今もやっています。PHP から何から、WordPress がなかったら身に付かなかったでしょうし、誇張なく WordPress があったから今の自分があります。当時の WordPress コミュニティってそういう人が多かったと思います。
WordPress は現在、インターネット上のすべてのウェブサイトの約4割で使われているそうです。とてつもなく大きな市場シェアです。そうなってくると自然な成り行きですが、ひと稼ぎしてやろうと色気を出して WordPress に関わってくる人も増えてきます。もはや恩返しなんて言ってる僕みたいなのは絶滅危惧種になりました。
これは多くの人が気づいていないことなんじゃないかと思いますが、WordPress コミュニティに詐欺が横行しています。1,000万サイトのアクティブインストールを有する Contact Form 7 プラグインは格好の的にされています。対抗する術は限られています。そんな中で、Matt が果断に行動する姿勢を見せたことは僕にとって本当に心強く思えた。WP Engine に対して特段遺恨はなかったけれど、彼らが WordPress.org に対して訴訟を起こした以上はコミュニティの敵とみなす他ありません。
Silver Lake とかプライベートエクイティファームとか、なじみのない言葉が出てきて何のことやらよくわからなかったという方も多いと思います。プライベートエクイティとは市場に公開されていない未公開株のことです。Silver Lake という投資会社が WP Engine の未公開株を取得して経営権を握っている、という話です。
プライベートエクイティファームの投資目的とは企業価値を高めた上でさらに高い価格で転売することです。短期間で収益性を高めることが仕事ですから、会社と直接関係のない OSS コミュニティの長期的な発展などには彼らは毛の先ほどの関心も持っていません。むしろ帰属が曖昧な共有地から取れるだけ取ってやろうと考えているでしょう。
Constant Contact というメールマーケティングのサービスがあります。Contact Form 7 は Constant Contact とのインテグレーションモジュールを同梱していたのですが、悪質なダークパターンを用いていたことがわかったためインテグレーションを廃止することになりました。
この発表以降も Constant Contact はダークパターンを止める気がないようです。なお後日連絡があり、今後新規に作られるアカウントに対してはダークパターンを用いないことにしたそうです。これで勘弁してくれ、という意味なのかと思いますが、既存アカウントには適用しない時点で、ダークパターンだと認識した上でやってますと白状しているようなものではないでしょうか。
ちなみに Constant Contact にもプライベートエクイティ投資ファンドの資金が入っています。
Contact Form 7 は僕が代表を務める Rock Lobster, LLC. が米国特許商標庁に登録している登録商標です。プロダクト名などに勝手に使うことは商標権の侵害になります。WPML という有名な多言語化プラグインを出している OnTheGoSystems という会社があるのですが、この会社は Contact Form 7 Multilingual などという名前のプラグインを販売してあからさまな商標権侵害を行っています。商標登録しているなら訴えたらいいじゃないか、と思われるかもしれませんが実際には外国企業を商標権侵害に問うのはきわめて困難です。
ちなみに同じ会社が WooCommerce Multilingual も出していて、これは Automattic の商標を侵害していることになると思うのですが大丈夫でしょうか。以前はよく WordCamp のスポンサーになっていた OnTheGoSystems の名前を最近見なくなりましたが何か関係があるのかも。
今に始まった話ではありませんが Envato が運営している CodeCanyon に登録されている商用プラグインの商標権侵害もあいかわらずひどいものです。Contact Form 7 の商標を無断使用したプラグインが公然と販売されています。以前に一度 Envato に改善を求めたことがあるのですが真剣に対応する気はないようです。
WordPress.org の公式プラグインディレクトリにはディレクトリ掲載に求められる基準がガイドラインとして定められています。商標権の尊重を求める条項もあります。そのため公式プラグインディレクトリではあからさまな不正はできないようになっています。それでも不正の試みが見られないわけではなく、今年初めに公式プラグインディレクトリ上の Contact Form 7 アドオンプラグインについて広範囲の調査を行ったところいくつかのガイドライン違反が疑われる不正が見つかり、中には Redirection for Contact Form 7 のような悪質性の高いものもあることがわかりました。Contact Form 7 の周辺だけに絞ってみてもこうなのですから、よりダイレクトにお金が絡む WooCommerce の周辺なんかではもっとひどい状況が生じているのだろうと容易に想像できます。
言うまでもないことですがこういった不正行為の害を被るのは僕のようなプラグイン開発者だけではなく、間違った情報で誘導されて買わなくてもいい商品を買わされているユーザーも同様に被害者です。このようにして今、WordPress コミュニティ全体が食い物にされているのです。今後 Matt が主張を後退させられる事態にもしなれば、それは WordPress が衰退する明確な兆候であり、オープンソースコミュニティの信条は実のないものとなり、不正行為は勢いづき、品質の良くないプラグインに高いコストを払い続けなければサイトを維持することもできない、Movable Type めいた落日が現実になるでしょう。僕はそれを本気で心配しています。
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